すみません
沖縄のある離島へ、友達と二人で旅行に行ったときの話です。 その離島とは、現在はリゾートホテルも建設されて観光地となっていますが、当時はまだ有名な場所ではなく、隠れた名所的な島でした。 宿は老夫婦が経営している古い民宿タイプで、1階しかない平屋です。部屋の扉は薄い木製で、鍵は九の字に曲がった釘を、輪っかに通すというおもちゃのようなもので、宿全体も痛んでいる寂れた雰囲気が漂っています。 あいにく台風が接近しており、天気は荒れ模様。到着した日に嵐になってしまいました。その影響でしょうか、宿泊者は私たち二人だけです。 おまけに、宿の人が 「家が台風で壊れるかもしれない。心配だから帰ります。明日の朝、また来ますから」 と、言い残して家に帰ってしまったのです。 宿にはたった二人が残されました。信用されたのは嬉しいのですが、お客を残して帰ってしまう感覚に唖然、です。 しかし何となくその状況が楽しくなり、宿を探索したり、冷蔵庫を勝手に開けたりと、それはそれで楽しく過ごしました。 そろそろ風呂に入ろうということになったときのことです。 その宿には湯船がなく、シャワーのみでした。 しかもそのシャワーは離れにあるシャワー室に行かないと入れません。歩いても1分と掛からない場所にあるのですが、途中は真っ暗です。 そしてシャワー室といっても、掘っ建て小屋に近いもので、夜に訪れるにはちょっと気味が悪いのです。 荷物が心配だから交代で入ろうということになり、まずは私が。 ・・・・・シャワー室に入ってビックリです。 カチッ、カチッ 何度ON、OFFにしても明かりがつきません。壊れているのです。 小さな窓から月明かりがわずかに入ってくるだけで、ほとんど真っ暗な中でシャワーを浴びるはめになってしまいました。 シャワーを浴びている間中、右後ろの天井付近に気配というか視線というか、それを感じます。気になって仕方なく、急いで浴び終えました。 きっと暗闇でシャワーを浴びる恐怖がそう感じさせるのだと信じて、友達には何も言わずに部屋で待っていました。 すると10分くらいで帰ってきて 「シャワー室の右後ろの天井が気になって仕方なかった・・・怖いな」 というのです。 自分も同じ場所が気になったと言うと、二人して震えました。 怖さも手伝ってなかなか眠ることができませんでしたが、夜中の3時頃、ようやく寝ることができました。もちろん明かりは点けたままです。 外は台風が通過しているらしく、激しい雨音が聞こえてきます。 それは急にやってきました。 寝始めて30分くらい経過したとき、突然部屋のドアが ドンドンドン! ドンドンドン!! と激しく叩かれて、二人同時に飛び起きたのです。 友達と「誰?」と顔を見合わせ、そして・・・ ドンドンドン! すみません!すみません!! ドンドンドン!! すみません!すみません!! と、切羽詰った男の声も扉越しに聞こえてきました。かなりの大声です。 扉は激しくノックされるたびに跳ねます。 しかし不思議と怖いという感覚はなく、誰?という感じです。 ドンドンドン! すみません!! その瞬間「宿の人かも知れない」と思い、ガチャっと扉を開けたのですが、そこには誰もいません。明かりの点いた廊下が延びているだけです。 たった今叫んでいた人が、瞬時に消えるはずがありません。私ひとりであれば寝ぼけていたということもあるでしょうが、友達と同時に確認していたのです。 雨音が大きいとはいえ、すぐに去ったのだとしても車のエンジン音は聞こえます。宿の方が帰ったときにも聞こえています。 一番近い民家までも1kmほど。徒歩でやってくる人なんていません・・・・。 翌日、宿の方に確認したところ 「昨晩は戻ってないよ。」 との返事。 そういえばあの声は若い男の声でした。その時初めて 怖い という感覚がゾクっと生まれたのです。 あれから17年。 今でも鮮明に覚えているノックの音と、 すみません!! の声・・・・・。 |