空白の・・・

そぅ、あれは、今から4年前の、まだ大学3年生の頃の話。
夏休みに男女数名と河口湖の別荘に泊まり、バス釣りを楽しんでいた。 2日目の夜、ひょんな事から温泉に入りに行こうという話になり、 ひたすら車を走らせ温泉へ向かった。
女の子全員と男2名は温泉に入り、僕と友達のテツは、別荘で既に風呂に入ってしまっていたので、車で待つことにした。
ただ、女陣の風呂は長い。

時間を確認、20時45分。 しばらくは出てこないだろうと、僕とテツは周辺へドライブに向かった。
しばらく適当に走っていると、カーナビに「西湖」の表示が。僕とテツは同じ中学・高校・大学。 中学・高校時代は、毎年、マラソン大会で西湖を1周させられた。
二人にとって思い出の場所、西湖。 自然と話も盛り上がり、車で1周してみようという話になった。
田舎の夜は暗い。
まして西湖の周りは人通りもない。
西湖を走り始めてしばらくして、ここに来てしまったことを何か直感みたいなもので後悔していた。
まず、カーナビに異変が現れた。

ザーッ ザーッ ザーッ・・・砂嵐・・。

音声の音量はかなり小さめに設定していたはずなのに、その砂嵐の音は思わず耳を塞ぎたくなるような大音量。
カーナビも映らず、今自分たちが何所を走っているのかさえ分からない。

自然とスピードを出す。

早く大通りに出たい。

灯りを見たい。

気のせいか同じ所をグルグル回っているような錯覚に苛まれる。そんな時

『わぁあ!!!』

テツが叫ぶ。
叫んだ理由は聞かなくても、なんとなく分かった。 自分の車のヘッドライトの明かりしかない漆黒の中で、 確かにそこにいた。
僕はとっさに目を背けたが、助手席のテツはまともに見てしまった。

側道に白い影。
影というか人間の形。
人間が四つん這いになった状態。

テツは完全に涙声。追い討ちをかけるように、墓石が全て倒された墓地。
僕も完全に涙目。
とにかく前だけを見るようにして必死で運転をする。

それからしばらく、どれだけ走っただろうか。
ようやっと少し広い通りに出ることが出来た。やっと、灯りと人と車があり、ついさっきの恐怖とはまるで別世界のように感じた。
気付くとカーナビも回復している。近くのコンビニに寄って、初めて男同志、怖くて抱き合った。
さっきまでの、あのあまりにもの恐怖からの解放。 しばらくの抱擁後、みんなを待たせてしまっているという事を思い出し、急いで温泉へ帰る。
携帯を二人とも別荘に置いてきてしまっていた為、 連絡も取れず、みんな待ちぼうけで怒っているだろう。
ただ、そんな事はもぅどうでもよかった。
こうして無事にいられる事がとても有難かった。

温泉までの帰路の車内は、とにかく明るく振舞いたかった。 ようやっと温泉へ到着。
まだ誰も出てきていない様子。二人で顔を見合わせる。携帯が無いので連絡出来ず、どうしようも出来ないので車内で待つことにした。
しばらくすると、楽しげに話しながら、みんなが出てきた。 開口一番、怒られると思った。 しかし、『おまたせ〜超気持ちよかったよ〜』 その時、何かが引っ掛かった。

それまでも時計は何度も見ていた。
何も違和感を感じなかった。
最後に時間を見たのは帰りに寄ったコンビニ。22時22分。 2222だよ。とテツとも話した。そんなどうしようもない事でも 無性に笑えた。 …でももう一度時間を確認したかった。

・・・・・・21時24分・・・・・

テツも同じ思いを抱いたようだった。
二人顔を見合わせ、飛び出すように車を出た。39分しか経っていないはずなんてない。 西湖までの往復ですら1時間はかかったのに。 あれだけ西湖を彷徨ったのに…。

空白の1時間。

未だにテツと飲みながら、その話になると、 二人で涙目になるのは言うまでもない。

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