苦しい

霊の存在はあまり信じてはいないのですが、人をあの世界へ引きずり込もうとする ような存在があるんだなと確信した時がありました。
それは、十数年前に母の実家に遊びに行った八月の事です。

祖母がこんな話をしました。
地元での出来事です。

ある中年の夫婦がいました。
その夫の父が最近亡くなり、葬儀も終わり新しいお墓に納骨を済ませました。この地域の風習で、新しいお墓には、白い布をたすきのようにして一時巻きます。

その夜の事。

亡くなった父が、夫の夢の中に出てきて 「苦しい・・苦しい・・」 と何度も言ってきたそうです。 不気味な夢に目が覚め、妻を起こしその事を話しました。

「親父が夢に出てきて、苦しい苦しいと言うんだよ。」
「墓に巻いたあの布がいけないんだろうか・・。」

その夜は、本降りの雨でした。
夜が明けてからの方がいいと言う妻の制止を振り切り、夫はお墓の布を 外しに出て行きました。しかし、夫はいつまでたっても帰ってきません。
心配した妻が、子供にその事を言い残し、夫を探しに行ったそうです。

結局、夫婦共に帰って来ることはありませんでした。

翌朝、夫婦はお墓のそばにあるため池の中で、変わり果てた姿で見つかったそうです。
祖母が私に地元の新聞を見せてくれました。 そこのお悔やみの欄に、その夫婦の名前が本当に書かれてあり、背筋が凍る思いがしたのを今でも覚えています。

私の実家は田んぼが多く、ため池もあちこちにあります。そこで子供が溺れて亡くなるといった事故もまれにあったそうです。

誤ってため池に落ちた夫を見て、助けようとした妻も巻き添えになってしまった・・・そんな単な る「事故」だったのか・・・。
例えそうだったとしても、何か悪意のある「見えない力」の影響を感じられずにはいら れませんでした。

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